結論:独立すると社会保険の土台が変わる
会社員から個人事業主になると、健康保険と厚生年金の組み合わせから、国民健康保険と国民年金の組み合わせに切り替わります。保険料は会社との折半がなくなり全額自己負担になり、国民健康保険には扶養という仕組みもありません。まずはこの二つの違いを理解したうえで、任意継続という選択肢も含めて比較することが独立準備の最初の一歩です。
金額そのものは前年の所得や居住する自治体によって変わるため、この記事では断定的な数値は示さず、何を確認すれば自分の場合が分かるかを整理します。
会社員時代の社会保険(健康保険・厚生年金)のしくみ
会社員は健康保険と厚生年金保険にまとめて加入しており、保険料は給与に応じて計算され、会社と本人が折半して負担します。扶養家族がいても追加の保険料負担が生じない点も特徴です。
厚生年金は加入期間と納めた保険料に応じて将来の年金額が決まる仕組みで、国民年金部分に上乗せする形になっています。在職中は給与天引きで手続きの手間を意識することが少ないのも、会社員の社会保険の特徴です。
退職すると、この健康保険と厚生年金の資格は原則として退職日の翌日に失われます。ここから、国民健康保険・国民年金への切り替え、または任意継続という選択が必要になります。
個人事業主の国民健康保険・国民年金のしくみ
個人事業主は原則として国民健康保険と国民年金にそれぞれ加入します。国民健康保険は住んでいる市区町村(東京23区を含む)が運営する制度で、保険料の計算方法や料率は自治体ごとに異なります。
国民年金は全国一律の制度で、保険料は所得にかかわらず定額です。会社員時代の厚生年金とは異なり、給与に比例した保険料ではない点を押さえておくと混乱しにくくなります。
国民健康保険には会社員の健康保険のような扶養の仕組みがなく、世帯にいる家族一人ひとりが被保険者として保険料の計算に含まれます。世帯人数が保険料に影響するため、独立前に自分の世帯構成を踏まえて確認しておくことが大切です。
任意継続という選択肢との比較
退職後の健康保険には、国民健康保険に加入する以外に「任意継続」という選択肢があります。これは退職前に加入していた健康保険に、退職後も一定期間そのまま加入し続ける制度です。
任意継続を利用する場合、資格喪失日の前日までに継続して2か月以上被保険者であったことなどの要件があり、資格喪失日から20日以内に申請する必要があります(出典:全国健康保険協会、2026年9月22日確認)。期限が短いため、迷っている時間はあまりありません。
以下は比較の軸を整理した表です。金額は自治体や加入していた健康保険組合によって異なるため記載していません。
| 比較軸 | 国民健康保険 | 任意継続 |
|---|---|---|
| 運営主体 | 住んでいる市区町村 | 退職前に加入していた健康保険(協会けんぽ・健康保険組合等) |
| 加入手続きの期限 | 資格喪失から原則14日以内(自治体により案内が異なる) | 資格喪失日から20日以内 |
| 保険料の決まり方 | 前年所得等に基づき自治体が計算 | 退職時の標準報酬月額等を基に計算 |
| 扶養の扱い | なし(家族それぞれが被保険者) | 一定の要件を満たせば扶養を継続できる場合がある |
| 加入できる期間 | 制限なし(個人事業主として加入し続けられる) | 原則として最長2年間 |
どちらが有利かは前年所得や世帯構成、退職前の給与水準によって変わるため、実際の見込み額は自治体の窓口や加入していた健康保険の窓口に確認するのが確実です。
保険料はどう決まるのか(前年所得ベースという考え方)
国民健康保険料は、多くの自治体で前年の所得を基準に計算する仕組みを採用しています。独立1年目は前年(会社員時代)の所得が基準になるため、独立直後は保険料が高く感じられることがあります。
一方で、独立2年目以降は独立1年目の事業所得が基準になるため、事業が軌道に乗る前の所得が低い場合は保険料も下がる傾向があります。このように「前年の所得に基づく」という考え方を理解しておくと、いつの所得が反映されるのか見通しが立てやすくなります。
国民年金保険料は所得にかかわらず定額である点は、国民健康保険とは異なる仕組みです(出典:日本年金機構、2026年9月22日確認)。所得が少ない場合は免除・猶予の制度が用意されているため、負担が大きいと感じる場合は日本年金機構や自治体の窓口に相談する余地があります。
あなたの場合はどうなるか(分岐で確認する)
自分の場合にどの制度が当てはまるかは、次のような分岐で整理すると考えやすくなります。
- すでに開業届を出している/これから出す予定:どちらでも国民健康保険・国民年金への加入義務自体は変わりません。開業届の控えは所得証明の代わりに求められる場面があるため、早めの提出が手続きをスムーズにします。
- 法人化するか個人事業主のままか:法人を設立して自分が役員報酬を受け取る場合は、会社員時代と同様に健康保険・厚生年金に加入する形になります。個人事業主のままであれば国民健康保険・国民年金が基本です。
- 家族を扶養していたか:会社員時代に家族を扶養に入れていた場合、国民健康保険には扶養の仕組みがないため、家族それぞれの保険料も含めて見込み額を確認する必要があります。
- 退職前の給与水準が高かったか:任意継続の保険料は退職時の標準報酬月額を基準にするため、給与が高かった人は任意継続の保険料も相応に高くなる可能性があります。国民健康保険と任意継続の両方の見込み額を照らし合わせて判断します。
この分岐を踏まえたうえで、迷う場合は退職前に加入していた健康保険の窓口と、居住する自治体の国民健康保険担当窓口の両方に相談し、見込み額を出してもらうと比較しやすくなります。
独立後に必要な手続きの流れ
会社員を辞めて個人事業主になる際、社会保険まわりで必要になる手続きの一般的な流れは次のとおりです。
- 退職時に会社から健康保険資格喪失証明書などの必要書類を受け取る。
- 任意継続を検討する場合は、資格喪失日から20日以内に加入していた健康保険の窓口へ申請する。
- 国民健康保険を選ぶ場合は、住んでいる市区町村の窓口で加入手続きを行う(多くの自治体で資格喪失から14日以内の案内がある)。
- 国民年金への切り替えは、住んでいる市区町村の窓口または年金事務所で行う。
- 開業届を税務署に提出する(社会保険の加入義務とは別の手続きだが、あわせて済ませておくと以後の手続きが整理しやすい)。
いずれの窓口も、前年所得や退職時の給与水準が分かる書類を持参するとその場で見込み額の相談がしやすくなります。
まとめ
独立すると、会社員時代の健康保険・厚生年金から、国民健康保険・国民年金への切り替え、または任意継続のいずれかを選ぶことになります。保険料は前年所得や自治体、退職時の給与水準によって変わるため、断定的な金額ではなく「何を確認すれば自分の場合が分かるか」を軸に準備を進めることが重要です。
自分の世帯構成や退職前の給与水準を踏まえて、加入していた健康保険の窓口と自治体の窓口の両方で見込み額を確認してから、国民健康保険か任意継続かを選ぶと後悔しにくくなります。