結論:法人化の判断に「年収いくらから」という一律の基準はない
個人事業主が法人化(法人成り)したほうがよいかどうかは、売上・所得・役員報酬の額・社会保険料などで変わります。公式資料に「年収○○万円以上なら法人化」という基準はありません。
変わる項目は大きく5つです。税金の種類と税率、消費税、社会保険、決算・申告、設立などの費用です。
この記事では、まずこの5項目を整理し、メリットとデメリットを分けて説明します。そのうえで、ご自身の数字で試算して決める流れを紹介します。
数字は2026年10月17日時点で確認した公式ページに基づきます。制度は改正されるため、最終判断の前に最新の公式情報をご確認ください。
法人化で変わることの一覧
個人事業と法人では、課税や加入する制度の仕組みが別になります。主な違いは次の表のとおりです。
| 項目 | 個人事業 | 法人 |
|---|---|---|
| 事業の所得にかかる税金 | 所得税(5%〜45%の7段階) | 法人税(資本金1億円以下の普通法人は、年800万円以下の部分15%、超える部分23.20%) |
| 消費税 | 基準期間(前々年)の課税売上高が1,000万円以下なら原則免除 | 設立1期目・2期目は原則免除。ただし資本金1,000万円以上などは免除されない |
| 社会保険 | 常時5人以上の個人事業所(一部業種を除く)が加入対象 | 事業主のみの場合を含め、厚生年金保険・健康保険に加入 |
| 決算・申告 | 確定申告 | 法人税の確定申告(事業年度終了の翌日から2か月以内) |
| 事業の赤字の繰越 | 青色申告で翌年以後3年間 | 青色申告で10年以内の事業年度分 |
| 設立の費用 | 開業届のみ | 登録免許税など(株式会社は資本金の1,000分の7、最低15万円) |
出典:国税庁 No.5759・No.2260・No.6501・No.6503・No.5762・No.2070・No.7191、日本年金機構 適用事業所と被保険者、国税庁 C1-1(いずれも2026年10月17日確認)。
法人税の税率には例外があります。適用除外事業者は19%、所得金額が年10億円を超える事業年度は17%などです。また、大法人による完全支配関係がある法人は、この税率の対象外です。
なお、個人と法人は課税の仕組みが別です。法人の所得には法人税がかかり、役員報酬を受け取る側は、別に給与として所得税の対象になります。
法人化のメリット
メリットは、事業の状況によって大きさが変わります。「人による」点をご理解のうえで読んでください。
- 税の計算が法人の仕組みになる:事業の所得には法人税がかかります。役員報酬を受け取る側は、給与収入から給与所得控除額を差し引いた給与所得として計算します(国税庁「給与所得控除」)。どちらの計算が負担を軽くするかは、所得や報酬の額で変わります。
- 消費税の新設法人の取扱い:設立1期目・2期目は、原則として納税義務が免除されます(国税庁 No.6503)。ただし後述の例外があります。
- 赤字の繰越期間が長い:青色申告をしている場合、個人は翌年以後3年間、法人は10年以内に開始した事業年度の欠損金が繰り越せます。
- 個人事業税がかからない:個人事業税は「個人が営む事業」のうち法定業種にかかる税金です(東京都主税局)。法人には、別に法人事業税がかかります。
このほかにも、取引先が法人との契約を望む場合など、数字以外のメリットが出ることがあります。
法人化のデメリット
デメリットも、人によって重さが違います。
- 社会保険の加入義務と保険料負担:法人は、事業主のみでも厚生年金保険と健康保険への加入が義務づけられています。厚生年金保険料率は18.3%で固定されています。健康保険(協会けんぽ)の料率は都道府県ごとに異なるため、協会けんぽのページで確認します。保険料は標準報酬月額に料率を乗じた額で、事業主と被保険者で折半します。
- 設立費用:登録免許税や定款の関係費用などがかかります。
- 法人住民税の均等割:東京都23区の例では、資本金等が1千万円以下で従業者50人以下の場合、都民税均等割は年7万円です。1千万円超〜1億円以下では18万円です。自治体により異なります。
- 決算・申告の手間と費用:法人税の確定申告は、事業年度終了の翌日から2か月以内です。税理士へ依頼する費用も見込みます。
- 均等割は区分で決まる:均等割の税額は、資本金等の額と従業者数の区分に応じた税額表で定まります。事業の損益による計算ではない点を、見積もりの際に確認します。
いま加入している国民健康保険・国民年金がどう扱われるかを確認したい方は、個人事業主の社会保険もあわせてご覧ください。
判断の目安:見る項目のチェックリスト
金額で線引きせず、次の項目を自分の数字で確認します。
- 所得の見込み:今後数年の売上と経費から、事業の所得を見積もります。
- 役員報酬の設定:自分にいくら支払うかで、法人側と個人側の税負担が変わります。
- 社会保険料:加入が義務になるため、報酬額に応じた保険料と、事業主の折半分を含めて見積もります。
- 消費税の免税の扱い:現在の免税の状況と、設立後の1期目・2期目の扱いを確認します。適格請求書発行事業者の登録をしている場合は、免除されません。
- 取引先が法人を求めるか:契約の相手が法人との取引を条件にしているかを確認します。
- 決算の負担:決算書の作成や申告を、自分で行うのか税理士に頼むのかを決めます。
これらの項目は互いに影響します。たとえば役員報酬を変えると、所得税と社会保険料の両方が動きます。
判断は数字で変わるため、税理士に試算してもらう方法があります。弥生の税理士紹介サービスは、申込みが無料です。
税理士の探し方と費用の相場は、税理士の探し方と費用相場もあわせてご覧ください。
法人化のタイミング:決算期・期首・廃業のつながりで考える
「○月がよい」とは言い切れません。公式の仕組みから、次の3点を整理できます。
- 決算期(事業年度):法人は事業年度(決算期)を決めます。設立日から最初の決算日までが1期目になり、決算日の翌日から2か月以内に申告します。申告の時期を、自分の繁忙期と重ならないよう考えます。
- 期首の資本金:その事業年度開始の日の資本金が1,000万円以上の法人は、新設法人として消費税の納税義務が免除されません(国税庁 No.6503)。資本金の額で、設立1期目の消費税の扱いが変わります。
- 個人の廃業との関係:個人事業を廃止するときは「個人事業の開廃業等届出書」を提出します(国税庁 No.2090)。提出期限は国税庁で確認してください。青色申告の取りやめや、資産・契約・許認可の引き継ぎは、個別の事情で異なるため確認が必要です。
法人化後の消費税の免税・課税は、法人としての判定になります。インボイスの登録が法人としてどうなるかは、国税庁や税理士に確認してください。
手続きの流れ
大きな流れは次の順です。
- 個人側で、廃業に向けた「個人事業の開廃業等届出書」などを確認する
- 法人側で、定款の作成と設立登記を行う
- 設立後、税務署・自治体・年金事務所へ届出をする
社会保険の新規適用は、事実発生から5日以内に、事務センターか管轄の年金事務所へ提出します。添付書類に、法人の登記簿謄本(コピー不可)が必要です(日本年金機構)。
設立の手順は会社設立の手続き(オンライン登記)、定款は電子定款の作り方、設立後の届出は設立後の手続き一覧に詳しくまとめています。全体像は設立と登記の全体像で確認できます。
法人化にかかる費用
公式の数字で確認できるのは、登録免許税です(国税庁 No.7191、2026年10月17日確認)。
| 会社の種類 | 登録免許税 |
|---|---|
| 株式会社 | 資本金の額の1,000分の7(15万円に満たないときは15万円) |
| 合同会社 | 資本金の額の1,000分の7(6万円に満たないときは6万円) |
このほか、定款認証や印紙などの費用がかかる場合があります。内訳は会社設立費用の内訳で確認できます。設立後は、均等割や税理士費用などの継続的な負担も加わります。
法人化したらそろえるもの
- 法人口座:事業用のお金の流れを分けるために開設します。比較の軸は法人口座のネット銀行を比較するで整理しています。口座の候補の一つとして、ラクスルバンクの法人口座開設を公式サイトで確認することもできます。
- 本店の住所:自宅の住所を登記に出したくない場合は、バーチャルオフィスの比較で条件を見比べます。
- 税理士:税理士紹介サービスの比較と、個人事業の税理士費用の相場が参考になります。
ひとりで運営する小さな法人について知りたい方は、マイクロ法人とはも参照してください。
注意:制度は改正され、自治体で異なる
税率や保険料率は改正されることがあります。均等割などの地方税は、自治体によって異なります。この記事の東京都の数字は、23区の例です。
最終的な判断は、税理士、年金事務所、税務署に確認してください。個人の廃業や事業の引き継ぎも、個別の事情に合わせた確認が必要です。